yukino_halu’s diary

日常の雑記。

グループ・ダイナミックス 釘原直樹

正確なタイトルは以下の通り。

 「グループ・ダイナミックス 集団と群衆の心理学」 (釘原直樹)

 

これまで働いてきた職場で思うところがあったので、読んでみた。直接的な答えになるものではなかったけれど、面白かった。以下はメモとか感想とか。

 

・集団的手抜き、集団的浅慮

神輿を10人で担ぐと、2人が頑張り、6人は担ぐフリ、2人がぶら下がる。同調圧力、表面的な意見の一致、無謬性・道徳性の幻想、解決方略の拙さ、リーダーシップ(圧力)。自覚はあったけれど、私自身はクソ真面目・バカ正直で、常に全力投球&空気を読まないのだということが改めて分かった。周囲の人にとっては鬱陶しい迷惑なタイプだったかもしれない。私としては、与えられた仕事に注力するのは当然だし、疑問や疑念を解決してより良い方向へ持っていきたいだけなんだけど。どこまで周囲に合わせるかが難しい。

 

・リーダーシップの原理

アメリカ陸軍マニュアルの、11のリーダーシップ原理が挙げられているけど、軍じゃなくても通用する。

 1 自分自身を知り、自己啓発を続ける

 2 戦略や戦術に精通する(座学だけでなく業務を通じて学ぶ)

 3 進んで責任を引き受け、自分の行為の結果に責任を取る(問題・課題に進んで取り組む、批判を甘んじて受け、行動を改め、責任転嫁をしない)

 4 時宜に適った決定をする(「良い決定」は適切な時期に行われるものであり、時宜を失したものは、いくら内容が優れていても価値がない)

 5 身をもって範を示す(言葉よりも行動が部下に影響する。リーダーが自分をコントロールできなくなったり優柔不断になったりすると部下も自信を失う。信頼の喪失は士気を低下させ、パフォーマンスを阻害し、ますますストレスを高める)

 6 部下を知り、その精神的・身体的健康に気を配る(忌憚なく話せる状況を作り、信頼関係や絆を築ければ、部下の心や部隊の崩壊を防げる。ストレス耐性は個人差がある。日頃の訓練で自分や同僚やリーダーに対する自信を深めさせる。状況をよく説明し、困難性を誇張して考えないようにさせる。場合によっては休憩を与えることが大事)

 7 部下に率直に情報を伝える(部下は行動の理由を知っているときに最善を尽くす。部下はリーダーの指示の論理性を見極め、不当で理不尽なものに疑問を感じる)

 8 部下に責任感を植え付ける(リーダーは部下の成長に責任がある。様々なことに挑戦する機会を与えることで、責任感を持たせて自発性を育む)

 9 課題を自家薬籠中のものにする(過剰な監視や指示は怒りや敵意を生むが、逆にそれが足りなければ欲求不満を生む)

10 チームをまとめる(部下はリーダーの能力に対する信頼を必要とし、またチームのメンバーとして任務を遂行できるかという自信も必要としている。訓練を通じてチームを育む)

11 部下集団の能力に従って課題を遂行する(部下は、過大・過少な課題にフラストレーションを感じる)

 

・集合・群衆の行動

社会運動の動機には「相対的剥奪」があるらしい。内集団よりも外集団の方が経済的・政治的・社会的に恵まれた環境である場合、主観的な期待水準と現実的な達成水準の差によって、相対的剥奪の状態になる。絶対値ではなく相対値。あの人と比べたら自分は、っていう感覚か…。そして運動を主導するのは、所属集団の中では比較的恵まれた立場のものであることが多い。社会体制(法の範囲)の中で行われるもの(ex.インド独立運動)と、社会制度を根底から変革することを意図して暴力に訴えるもの(ex.1970年台の学生運動)がある。

リンチの要因は2つ。1つ目は、多数者側の地位が少数者によって脅かされていると思い込むこと。2つ目は、攻撃する側に没個性化が生じること。大きな群衆の一成員になった場合は匿名性が高くなり、責任の分散が生じたりする。そのため罪や恥の意識が低下し、衝動的・非合理的・情動的・反社会的な反応をする。

 

・流言・パニック

平時と非常時とでは、精神状態も思考回路も違っている。非常時には非常時に適応した倫理や規範が現れることもあるし、徐々に移り変わることで、その変化に気づかないこともある。飲み込まれることもある。所属している集団の規範がそもそもアヤシイこともある…。自分の常識とか受け取った情報をどこまで疑えるか、にかかってくるのかも。

 

・危機事態

筆者の研究のメインテーマと思われる。ビル火災や自然災害などで、当事者がどういった行動をするか、隘路脱出事例や情報発信例等を実験シミュレーションも併せて記述している。自己中だと結局は自分の首を絞めることになるし、根拠のない楽観視も退路を断つ。切羽詰まった緊急事態で、より良い行動を取るため・取らせるためにはどうしたら良いか…。正解は無いだけに、今後も試行錯誤で進むしか無いのだろう。

 

スケープゴート

個人や集団の攻撃エネルギーが集中的に他の個人や集団に向けられ、攻撃の量・エネルギーレベルが非常に高いのが特徴。責任を特定の人になすりつけ、自分の罪悪感を軽減する手段として用いられる。罪人・スケープゴートを引き摺り下ろすことで、一時的にでも自分たちの地位が上昇したような気分になれる(他人の不幸は蜜の味)。大衆は絶えずスケープゴートとなる罪人を求めているとも言え、メディアは大衆の欲望を反映した報道をする傾向がある。過剰な非難・批判を引き起こさないような認識・認知力が必要だなあ。